「三笘の1ミリ」を超える衝撃!?  最新AI技術が2026年W杯の観戦スタイルを変える!

いよいよ開幕するFIFAワールドカップ2026。アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共同開催となる今大会、現地へ駆けつけるファンだけでなく、テレビやネット配信での観戦を楽しみにしているという方も多いのではないでしょうか。

 

近年、スポーツ中継の技術は大きく進化しており、選手のすぐ近くを飛ぶドローンからの迫力ある映像や、いくつもの角度から撮影したリプレイ映像・検証映像など、現地に行かなくても一つひとつのプレーを至近距離かつ、臨場感あふれる映像が見られるようになっています。今回のワールドカップ中継においても、すでに新たなAI技術を用いた「これまでにない映像」を提供する計画が発表されており、期待も高まります!

 

では、今回のワールドカップ中継では、どのような技術を駆使した、どのような映像が楽しめるのでしょうか。本日は、長年、スポーツを題材とした映像解析研究に取り組んでいる宍戸英彦准教授にその見どころを教えていただきます。

編集部:まもなく開催されるFIFAワールドカップ2026では、試合中継において全選手の3Dアバターを使用したリプレイ映像や、審判の視点で試合を体感できる「レフリービュー」の採用など、新たな技術の導入が発表されています。

 

宍戸先生:今はカメラ自体もものすごく小さく、軽くなっていますし、また超高解像度の映像を撮影することができるようになったことで、手ブレを抑える技術も高まっています。こうしたカメラの小型化、高解像度撮影やハイスピードカメラといった領域の技術が上がったことで、より鮮明で揺れのない、かつ至近距離からのリアルな映像提供が実現できる。スポーツ中継の現場に、まさにそういった技術がどんどん導入される時代になったのだなと感じます。

 

編集部:スポーツの場にAI等の新技術が普及することによって、視聴者にとってより迫力ある映像、今まで見たことがないような映像が提供できるというのは大きなメリットですね。

 

宍戸先生:例えば全選手の3Dアバターを使ったリプレイ映像というのは、今、日本のプロ野球中継でも採用されている「自由視点映像(ボリュメトリックキャプチャ)」によるものではないかと予想しています。これはスタジアム内に無数のカメラを設置してさまざまな角度から選手を撮影し、集められた画像をコンピュータ処理して三次元モデルを作成。それをフィールド(背景)に貼り付けることによって、360度、自由な視点から見た映像が作れるという技術です。それによって、得点シーンはもちろん、試合の流れを決めるような重要なプレーや判定も自由な視点からリアルに再現できますから、まるで自分がフィールド内でプレーを見ているかのような感覚を味わうこともできるはずです。

 

編集部:先生は今回のワールドカップの中継では、どのような映像に注目したいと思っていますか? また、楽しみにしている技術などがあれば教えてください。

 

宍戸先生:やはり「自由視点映像」ですね。実は私の先輩にこの技術に携わっている方がいるのですが、そうした“専門家”から見ると、今の自由視点映像は、背景(フィールド)とそこに貼り付けられた三次元モデルの領域が「ものすごく汚い」と感じるのだそうです。でもその技術は毎年のように更新されていますので、今回の大会ではどのくらいクリアになっているのか、そこに注目したいですね。

 

あと個人的にもう一つ気になるのが、実際のカメラがどこまでフィールド、そして選手に近いところで撮影することができるかという点ですね。残念ながら現状ではAIを駆使して臨場感ある映像を再現したとしても、フィールドの中に入ることが許可されて、本当に選手の近くで撮影することができた映像にはかないません。これまでのルール、規定を変えて撮影された映像はまさに最先端の映像であり、今まで「誰も見たことがない映像」ですから。でもそれと同じ臨場感、迫力を、フィールドに入って選手に近づくことなく生成する――それが、私たち技術者が最終的に目指す映像でもあるのです。

「誤審では?」そんな判定のモヤモヤもAIが解消⁉

編集部:全選手の3Dアバターによる映像は、私たち視聴者に臨場感あるシーンを提供してくれるだけでなく、オフサイド判定のリプレイなどにも活用されるそうです。AI技術の進化は、公平・正確な判定にも貢献しているのですね。

 

宍戸先生:実際、今は試合中の判定にもAIの技術が活用されるようになっています。しかしこの場合、やはりその競技のルールに大きく関わる部分ですので「厳密な精度を実現している」ことを証明できるエビデンスを確立する必要があります。また、どんなにAIによる精度が高まっても、スポーツにおいては判定のすべてをコンピュータに任せるのではなく、「最終判断は人間が行う」というのが基本姿勢となっており、今回のワールドカップでも同様だと思います。もちろん、年々AIの精度は上がっていますし、新しいアルゴリズムも入っていますが、それでもその原則・姿勢は崩れない。それがスポーツをより楽しくする要素になっているのではないかと感じています。

 

編集部:サッカーに限らず、スポーツの大きな大会では、頻繁に「誤審ではないか」と感じさせる微妙な判定が話題となるイメージがあります。そういう場面にAIが入ってくることでモヤモヤ感も少なくなりそうですが…。

 

宍戸先生:それはあると思いますが、賛否両論も延々と続くでしょうね。例えば2024年パリオリンピックの柔道団体戦で対戦相手を決めるルーレットは「ランダムで選手が選ばれる」とされていましたが、最終的には多くの人に「誰かが裏で操作しているのでは?」といった疑念を持たれてしまいました。判定や勝敗に関わる部分にAIを導入する場合、視聴者が「誰かが操作しているのではないか」「本当に公平なのか」と感じさせてしまうようなシステムでは物議を醸すことになります。疑念を生まない、クリアなものを作るという目標をしっかりと設定したうえで、技術開発に取り組むことが重要だと思います。

 

編集部:確かに! 今回の大会では選手の動きを精密に追跡することでオフサイド判定もより正確に、より早く判断できるともいわれています。でも、それが本当に精密で公平なのかと疑念を感じさせるようでは、大会自体の価値も下がってしまう気がします。

 

宍戸先生:当然そうなると思います。そして、精密で公正な判定が実現できれば、選手のプレーやパフォーマンスも変わってくるのではないでしょうか。今までは曖昧だったからこそOKとしていた戦略は精密に見極められるようになることで大きく崩れていく可能性もありますし、そういう部分にも対応できるようなパフォーマンスに変わっていくはずです。オフサイドやファウル、そしてゴールといったルールに触れるような精密なシステムが導入されることで、選手やチームもさまざまな修正をする必要が出てくるのではないかと思いますよ。

選手の能力だけでなく「AIを駆使する力」が勝敗を左右する!

編集部:AIの導入によって戦術やパフォーマンスが変わるとなると、これまでの練習やトレーニングの方法にも変化がありそうですね。

 

宍戸先生:実際、今はトップクラスの選手、チームの練習にはAIが多く採用されていて、サッカーにおいても選手の位置情報、速度、それぞれの選手がボールをどのようにコントロールしているのかといった戦略の分析もすべてAIが行っています。今回のワールドカップでも全チームに生成AIのアシスタントが入った公式タブレットが支給され、全選手のデータはもちろん、試合中の疲労度なども分析されて、負傷リスクの予想なども通知してくれると聞いています。そうしたデータをどう駆使して、どう戦略を経て、采配するか、チームスタッフにはそういう部分を検証し、考えるといった力も必要になっている時代といえますね。

 

編集部:そうなるとチーム競技にしても個人競技にしても選手のパフォーマンスだけでなく、AIを駆使する頭脳、能力がどれだけあるかという部分が成績や勝敗に影響してくるのではないでしょうか?

 

宍戸先生:私の個人的な解釈ではありますが、やっぱりAIによるデータを駆使できた人、チームが強いと思います。AIの技術は日々進歩して、今まで気づかなかった、知らなかったデータも提供してくれます。でも重要なのはそれを選手やコーチが使いこなせるかどうか。AIがさまざまなデータを分析して、そのデータを選手やコーチが活用してパフォーマンスを向上させていく。今後はそれを延々とうまく繰り返すことができたチームが加速度的に力を付けていくのかなと予想しています。

 

編集部:今回のワールドカップはもちろん、国際的な大会に出場する選手、チームとも、私たちの想像をはるかに超えた部分にまでAIが入り込み、活用されているのですね。

 

宍戸先生:これまでもさまざまなスポーツの大会で自由視点映像をはじめ、臨場感・迫力のある映像が見られるようになり、視聴者側もそれを見てビックリするというフェーズではなくなっていると思います。でも前回の大会で話題を独占した「三苫の1ミリ」の瞬間を切り取ったような映像が、今大会ではさらにどのように進化し、私たちに感動を提供してくれるのか。そして試合中も選手一人ひとりのポジションや動き、戦略に関するさまざまなデータなどもリアルタイムで提供されると思いますので、ぜひそういう部分にも注目してみてください。

まとめ

冬季オリンピック、WBCと大きなスポーツ大会が続いている2026年、選手を至近距離から映し出すドローン映像、一つのプレーをさまざまな角度からリプレイしてくれる自由視点映像など、迫力かつ臨場感あふれる中継映像に驚き、感動した人も多いのではないでしょうか。

 

スポーツの世界にAIの技術が活用されることで、現地に行かなくてもこうした「今まで見たことのない」映像が見られるようになっただけでなく、勝敗やルールに直結する判定の公平性・正確性向上、そして選手やチームのパフォーマンスにも大きく影響しています。今後は、宍戸先生がおっしゃる通り「AIからのデータを駆使し活用する力」が選手やチームの成績にも大きく関係するようになるかもしれません。

 

もちろんまずは国の威信をかけた世界トップレベルのプレー、自国チームの試合を純粋に楽しむ、応援することが重要ですが――時には少し視点を変えて、今まで見たことのない迫力ある映像、審判の判定をサポートするリアルな3Dモデル、データをもとにどうチームの戦略、采配など、見えない部分にも活用されているAIの技術に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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ページ公開日:2026/05/29

プロフィール

宍戸英彦

理工学部 准教授

宍戸英彦

専門分野
コンピュータによる視覚認識・視覚メディア処理、スポーツ科学
主な学歴・職歴
スポーツ映像解析をメインに、今まで見えない情報を見えるようにするという可視化の技術を用いて、「新しい絵」を作る研究に従事。特にバトミントン競技の分析や映像処理の分野で知られている