その生きづらさは「気質」か「思い込み」か。心理学者と考えるHSP(繊細さん)ブームの正体

「もしかして、自分もHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン/繊細さん)かも……?」 ネットの診断テストを、ついつい試してしまったことはありませんか? かつてメディアで盛んに特集されたこの言葉は、今や日常に定着しました。現在も「あなたのHSP度は?」といったセルフチェック表が無数に存在しており、実際に「試したことがある」という方も多いはずです。

 

HSPが広く認知されるようになったことで、自身が長く感じていた「他人とは違う繊細さ」の“理由”を知り、それを周囲の方に理解してもらえるきっかけができたといったメリットがある一方で、自分にHSPであるという「ラベル」を貼り、『繊細だから自分には無理』と仕事を選り好みしてしまうなど、自分の可能性を狭めてしまうといった問題も見られるといいます。

 

では、本来、HSPとはどのような性質の人を指し、HSPと診断された時、周囲にHSPの人がいる時にはどう対処するのが良いのでしょうか。そこで今回、長年、科学的側面からのHSP研究を続けている飯村周平准教授に、近年起こっているHSPを取り巻くさまざまな問題点とともに解説していただきました。

編集部:日本では2020年頃から広く知られるようになったHSP(繊細さん)ですが、心理学においては古くから提唱されていた概念だとお聞きしました。
 

飯村先生:そうですね。このHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)という概念は、1996年にアメリカの臨床心理学者エレイン・アーロン博士によって提唱されたもので、おっしゃる通り、日本では2020年頃から注目され始め、広く知られるようになりましたが、心理学の研究においてはそんなに「新しい発見!」といったものではありません。
 

編集部:HSPとは文献などを読むと「病気」ではなく、感受性が高くて刺激に敏感な人という「気質」とのことですが、これはその人が生まれ持った性質のようなものなのでしょうか?
 

飯村先生:おっしゃる通りで、HSPは今、一部で新しく発見された病名のように広まってしまっていますが、これは心理学においては先天的な特性、それぞれの人が持っている遺伝子の特徴の違いである「気質」のひとつであり、病名ではありません。私たち人間が持つさまざまな気質には感受性が高い・低いといった気質もあるわけですが、その中でも特に感受性が高い人のことをHSP、ハイリー・センシティブ・パーソンと名付けているわけです。

 

編集部:なぜこのHSPという概念が2020年になって急に日本で広がったのでしょうか。
 

飯村先生:これに関してはいくつかの背景があって、ひとつは新型コロナの影響があったとおもいます。外出制限などもあって、誰もが社会的にもかなりストレスフルな状況の中で生活していましたし、感染しない、させないためにどうしたらいいかとさまざまな部分に過敏になっていましたよね。そんな時にHSPが「繊細さん」という言葉と共にテレビや雑誌など、さまざまなメディアで紹介された。当時の社会的な状況の中では、人々の「繊細さ」を表す言葉が非常に刺さりやすかったのかもしれませんね。
 

編集部:HSP、繊細さんという言葉が広がったことで、今まで感じてきた「生きづらさ」に対して「自分はHSPだったのか」「だから生きづらさを感じていたのか」と同調している人が多いという印象がありますが…
 

飯村先生:HSP、繊細さんという言葉がなぜ人々の心に刺さったのかといえば、やっぱり「生きづらさ」という、なかなか説明しがたい現象を感じる人が多かったことにあるのではないかと感じています。そもそも心の問題というのは非常に言語化することが難しく、また検査などをしても数値として現れてこない部分もたくさんあります。そんな中で、HSPとか繊細さんという言葉が良くも悪くも人々の「生きづらさ」を説明するような言葉として刺さったのかなと。さらに「病気」ではなく「気質」なのだということも、より人々に受け入れられやすいポイントだったのではないでしょうか。

ブームによって広がったHSPに対する「間違った認識」

編集部:ネットの診断テストで「自分はHSPだ」と確信し、安心する人は多いです。でも先生は、そこに「思い込みの危険性」があるとおっしゃっていますね。

 

飯村先生:こうした診断テストの内容を見ると、HSPを説明する項目やチェック項目の大部分は科学的根拠が乏しく、主観的には8割くらいの人に少なからず当てはまるような設問となっています。それにより、見た人に「自分にピッタリ当てはまる」「自分のことを言い当ててくれている」と思いこませる「バーナム効果」が働いているケースが目立ちます。

 

編集部:そうした「自分はHSPだ」という思い込みや自己理解によって、どのような問題が生じているのでしょうか。

 

飯村先生:一つは「自分を特別視したい」という思いからHSPという“ラベル”を自分に貼る感覚で公言している人がいること。もちろん、長い間感覚が過敏なこと、繊細なことに悩まれてきて、やっと周囲の人に言えるようになったという人もいると思います。でもそれとは別に「私はあなたと違って繊細で特別。だからもっと配慮してください」という方もいるように感じます。

もう一つはもっと悲劇的で、本当は自閉スペクトラム症やうつ病といった障害が隠れていているのに、間違った情報によって「自分は病気ではなくHSPなのだ」と自己理解され、適切な医療や支援とつながる機会を失っている人が増えていること。こうした障害のある方の中には感覚過敏の症状が出る方がいるのですが、生きづらさを感じている、感覚が過敏……という部分だけで、これはHSPなのだと自己判断してしまう方もいるようです。

 

編集部:先生の著書の中でも、本当はお子さんに発達障害があるのに「この子は病気ではなくHSPです」と、支援を拒む例があると書かれていましたね。

 

飯村先生:さまざまな施設や心理相談の現場において「私の子どもはHSP(もしくはHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド))です。発達障害ではなく、気質の問題です」とおっしゃる方が増えているとも聞いています。障害を受け入れることが難しい、もしくは抵抗を感じており、病気ではなく気質であるというHSPに当てはめたいという心理が生まれるのかなと思いますが、これもHSPという言葉が変な、間違った形で広まってしまったことによる大きな問題だと感じています。

 

編集部:それを防ぐためにも、やはり「生きづらさを感じる」ようなら、専門のクリニックに足を運ぶべきなのでしょうか。

 

飯村先生:「日常生活にも支障が生じている」という状態ならば、専門医の診断やカウンセリングを受け、HSP以外の病気や障害がないか確認すべきだと思います。HSPとは医学的な診断名ではなく、精神科で診断や検査ができるものでも、明確な診断基準があるものでもありません。ネットで「HSP」「精神科」といったキーワード検索をしてすぐに出てきたから……と安易にクリニックを選ぶのではなく、治療内容や実績なども確認するようにしていただきたいと思っています。

HSPの「正しい知識」を多くの人に発信していきたい

編集部:これまで指摘された「問題点」を踏まえ、今後は専門家としてHSPをどのように世の中に伝えていくべきだとお考えですか?

 

飯村先生:これは私が一貫して取り組んでいることでもあるのですが……HSPに限らず、心理学に関するこういった話は科学的根拠のない、迷信といわれるようなものが関わっていることも少なくありませんから、少なくともメディアとか専門家の立場で情報を発信するのであれば、その情報にしっかりとしたエビデンス、科学的根拠があるのかどうかということを重視すべきだと感じています。また受け手側も、さまざまな情報や診断テストをして、「私もHSPかもしれない」と思ってもそれを鵜呑みにせず、その情報が信頼できるものなのか、一度立ち止まってその正確性を吟味すべきだと思います。

 

編集部:専門家やメディアはHSPに関する正しい情報を発信する、そして情報を受ける私たちも正しい知識をきちんと見極めるという状況を作っていくことが大切なのですね。

 

飯村先生:そうですね。やっぱり現状の大きな問題の根本にあるのは、間違った情報をもとに「自分はHSPだ」と自己理解されている方が多いということ。それによって一時的には救われた気持ちになるかもしれませんが、そもそもの情報が間違っているので、その後も間違った方向に進んでいってしまうことが多いのです。だからこそお伝えしたいのは「HSPという言葉はゴールではない」ということ。HSPだと自己理解したからといって、根本にある「生きづらさ」が解決するわけではありません。自分がHSPだと認識できたことをスタートとして、今後、自分はどうすれば生きやすいと感じるようになるのか、その「環境づくり」に目を向けるようにすることが大事だと思うのです。
 

編集部:HSPの方が「生きやすい」と感じる環境を作るためには、どのような点に配慮すればよいのでしょうか?

 

飯村先生:感受性が高い人にとって、自分が置かれている環境を見直す、整えることはとても大切なことです。実際、中学から高校に上がる際に「学校環境が良い方向に変化した」と思っている人ほど、「生きづらさが減った」「元気に過ごせるようになった」いった変化が見られますし、成田空港で行った実証実験では、特に静かで落ち着いたエリアに座って7分間過ごすと感受性が高い人ほど「不安が減った」と感じるといった結果も出ています。HSPの方は、良くも悪くも周囲の環境からの影響を受けやすいので、ホッとできる場所や、楽しい映像やリラックスできる音楽を流すなど、心地よく過ごせるような環境を整えるようにするといいですね。

 

編集部:日本においては2020年以降急激に広まったこのHSPという言葉・概念ですが、それから今日まで、新たな研究はどのくらい進んでいるのでしょうか。

 

飯村先生:近年、研究数は右肩あがりに増えていますし、その研究方法も洗練されつつあります。例えば先にもお話しした通り、世の中には怪しいHSPのチェックリストが多く存在しますが、今は専門の研究者たちによって、これまでの研究・知見に基づいた新たなチェックリストの作成が進められています。そして作成したチェックリストを世界各国で使用し、その結果を比較するといった研究や、HSPと他の精神疾患との関係に関する研究なども進んでいます。こうして蓄積された研究知見が一般の方々の目にも触れられるくらいまでになれば、今、広がっている間違った情報を正しい情報に入れ替えることもできるのではないかと期待しています。

 

まとめ

科学的根拠のないセルフチェック表で「自分はHSPである」という“ラベル”を貼り、さまざま軋轢や誤解を生んでいる――近年の「HSPブーム」によってそうした悲しい事例が多く報告されています。

長年、こうした問題の大きな要因となっている「HSPに関する間違った情報の拡散」に立ち向かい、声をあげてきた飯村先生。HSPという言葉や概念が広まったことで「自分を理解するよいきっかけになった」と心を軽くした人がいる一方で、HSPというラベルで配慮や理解の強要、本来なら受けるべき病気や障害に対する支援が届かないといった事例が増えていることに心を痛めています。

「今はメディアへの出演や動画サイトへの発信、著書の執筆などによって正しい知識の啓蒙に取り組んでいる」という飯村先生。今後は増え続けているというHSP研究者とともに、どのような新たな情報を届けてくれるのか、その活動に注目していきたいと思います。

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ページ公開日:2026/05/29

プロフィール

飯村周平

教育学部 准教授

飯村周平

専門分野
発達心理学、青年心理学
主な学歴・職歴
  • 中央大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。
  • 長年に渡りHSPに関する研究に取り組み、『HSPブームの功罪を問う』(岩波書店、単著)、『HSPの心理学:科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」』(金子書房、単著)、『HSP研究への招待:発達、性格、臨床心理学の領域から』(花伝社、編著)など、HSPに関するさまざまな主著を発表。近年の「HSPブーム」による誤認識、HSPの「ラベル化」について、科学的側面から警鐘を鳴らし続けている。