異常気象を「炭」で止める?農作物収穫量3倍、CO₂を封じ込める新常識

猛暑や豪雪など、深刻さを増す異常気象。「自分にできることは?」と不安を感じていませんか?今、世界が注目するのは「バイオ炭(ばいおたん)」という魔法のような炭。土に撒くだけでCO₂を半永久的に封じ込め、農作物の収穫量を2〜3倍に増やす力を持っています。

今回は、長年この分野の研究に取り組んできた佐藤伸二郎教授に、家庭でもできる温暖化対策から、エチオピアの食料危機を救ったプロジェクトの裏側までお聞きしました。身近な「炭」が、地球のピンチをチャンスに変える。そんな驚きの知恵を紐解きます。

先生は長く「バイオ炭」の研究を続けていらっしゃるそうですが、そもそもバイオ炭とはどのようなものなのでしょうか。

佐藤先生:バイオ炭とは、英語で「Biochar」といい、これは有機物を意味する「Biomass」と炭を意味する「Charcoal」を合わせた言葉で、木・竹・もみ殻・家畜ふんなど生物由来の「有機物」を無酸素環境下の高温で炭化させたものを指します。
皆さんがよく知る「木炭」は、木を材料としており、バーベキューなどの「燃料」が主な用途です。一方、バイオ炭は燃料としてだけでなく、土に撒いて環境を改善したり、空気中の炭素を土壌中に閉じ込める「炭素貯留」に活用されたりします。今、気候変動を抑える切り札として世界中で注目されているのです。

つまり、バイオ炭を土壌に撒くことで、農作物の収穫量を増やしながら、温暖化の抑制にもつながるということですか?

佐藤先生:まさにその通りです。植物は成長過程で大気中のCO₂を吸収しますが、枯れて焼却されると、またCO₂を放出してしまいます。
そこで廃棄物をバイオ炭にして土壌に撒くのです。バイオ炭に蓄えられた炭素というのは、土壌中では100年で0.2%程度と、分解が非常に遅く、土壌中にほぼ永久的に蓄えられます。この「CO₂を閉じ込める」仕組みは、「カーボンクレジット」など世界各国で温暖化対策の有効なツールとして採用され始めています。

温暖化対策として期待が高まるバイオ炭ですが、普及には「誰でも手軽に扱えるか」が重要になりそうです。専門的な装置がなくても、簡単に作れるものなのでしょうか。

佐藤先生:「バイオ炭」と聞くと、何か特別な作り方があるように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。
バイオ炭を作る時に一番大切なのは「空気が入らないようにする」こと。大学の実験室ではアルミ缶などに密封した有機物を電気炉で300~400℃まで加熱して作成していますが、そうした装置がなくても日本でよく行われている「野焼き」に近い方法で、十分に質の良い炭を作ることが可能です。この「誰でも、どこでも、簡単にできる」という点こそ、バイオ炭が持つ大きな強みなのです。

私の研究チームが実施した2021年からのプロジェクトでは、電気炉のない環境でも、野焼きの方法で高品質なバイオ炭を生産することに成功しました。廃棄物を重ねた山にわらや土などを覆い重ね、空気を遮断して下から着火する。このシンプルな手法が、現地の農業に大きな変化をもたらしています。

農作物収穫量3倍!エチオピアを救う炭

バイオ炭を活用したエチオピアでの研究活動が始まった経緯とその概要をお聞かせいただけますか?

佐藤先生:私はもともと、エチオピアの土壌でバイオ炭がどのような効果を発揮するか、長年研究を続けてきました。その過程で出会ったのが、タナ湖という大きな湖で大量に生い茂る「ホテイアオイ」という外来性水草の問題です。

現地では、この水草が湖の生態系を壊し、船の通行も妨げる「厄介者」として非常に苦慮されていました。そこで、「この負の遺産を、価値ある資源として有効活用できないか?」と考えたのが全ての始まりです。
収穫したホテイアオイをバイオ炭にして土壌に撒き、土壌を改良して農作物の収穫を増やす。それと同時に、「メタン発酵」という技術を使ってエネルギーとしてのメタンガスと、50種類以上の栄養素を含み「スーパーフード」ともいわれる微細藻類の「スピルリナ」を生産する。それにより環境保全と経済成長を両立させる循環型社会の構築をめざそうと考えたのです。

土壌の劣化が深刻な課題となっているエチオピアにおいて、バイオ炭の導入はどのような変化をもたらしたのでしょうか?

佐藤先生:本当に想像をはるかに超える効果が出ました。このプロジェクトでは、創価大学の博士課程でバイオ炭の作り方を学んだ現地の学生が中心となり、実証実験を行いました。先ほどお話しした「野焼き」に近いシンプルな手法で炭を作り、実際に自分たちの手で土に撒いたのです。
そして、土壌荒廃が深刻な実証地でトウモロコシや小麦、現地の伝統的な穀物「テフ」などを栽培したところ、撒かなかった場合と比較して収穫量が2~3倍に増えるという実験結果が出ています。これは相当な効果でした。土壌そのものが痩せ細っていたからこそ、バイオ炭による改良効果が目に見えて現れたのだと感じています。
この成果には現地の大学も非常に高い関心を寄せています。バイオ炭の活用を広げていくことは、エチオピアだけでなく、世界の食料難を解決する強力な一手になるはずです。これからは、この取り組みをさらに大きな社会の動きへと広げていきたいですね。

収穫量の増加だけでなく、子どもたちの「健康」にも直接的な変化があったとお聞きしました。

佐藤先生:今回のプロジェクトで最も大きな成果だと感じたのが、ホテイアオイから生産した「スピルリナ」の活用です。

豊富な栄養素を含む「スピルリナ」をつくり、現地の小学生に給食として提供しました。スピルリナが入っているパンと、入ってないパンを食べてもらったのですが、たった5か月間の期間で、スピルリナが入ったパンを食べた子どもたちの方が明らかに身長も体重も増加するというデータが得られました。
エチオピアはもともと学校で給食を提供する制度もない国だったのですが、「パンが食べられる」と知った子どもたちは大喜びで、学校に通う一つの目的にもなったのです。

現地でスピルリナ入りのパンを作ることには、まだ難しい点がありますが、現地の教育委員会などでも「給食には大きな意味がある」との理解が広がり、給食制度を導入しようという動きが始まっています。
ホテイアオイという「厄介者」を処理して、私たちが使える「役に立つもの」に変換しようとする発想から始まった取り組みが、子どもたちの健康を守り、教育や社会のあり方まで変えようとしています。

有害物質も吸着!炭のすごい力

気候変動への対策だけでなく、私たちの身近な生活環境を守るために、バイオ炭は今後どのように進化していくのでしょうか。

佐藤先生:近年、私が力を入れているのが、河川や湖沼に溶けだした有害物質をバイオ炭で取り除く研究です。炭は「水質汚染」の解決にも役立ちます。炭には無数の小さな「穴」が開いていますが、この穴がフィルターの役割を果たし、撥水加工や泡消火剤に使われる「PFAS(ピーファス)」*などの有害物質を吸着・除去してくれるのです。バイオ炭には、社会の発展とともに生まれてしまった新たな課題を解決する力があります。この活用法をより多くの人に知っていただき、一人ひとりに「炭は環境問題や気候変動に貢献できる」という意識を広めていけたら嬉しいですね。

*近年、健康への影響が懸念され社会問題となっている「PFAS」。バイオ炭は、この目に見えない有害物質を魚などの体内に入る前に回収し、大気中のCO₂だけでなく、水環境の汚染にも対応できる可能性を秘めています。

日本のような先進国は、日々の経済活動の中でどうしても多くのCO₂を排出してしまいます。バイオ炭をうまく活用することで、排出量削減も期待できるのでしょうか?

佐藤先生:そう、まさにその通りです。2015年に採択された「パリ協定」にもとづき、今は国ごとにCO₂の排出をどこまで抑えるかというルールを決めて取り組んでいます。
でもCO₂を「出さない」ことだけを追求すると、社会全体のシステムを劇的に変えなくてはならない部分もあり、実現が非常に難しくなってしまうという側面もあります。
バイオ炭を活用し、CO₂を積極的に「閉じ込める」量を増やしていけば、大気中に排出されたCO₂を吸収し、貯留してくれますから、プラスマイナスで排出量を減らしていくのと同じ効果が得られます。
もちろんバイオ炭だけですべてのCO₂を吸収することはできませんが、気候変動を食い止めるためのひとつのツールとして、さらに活用の場は広がっていくと期待しています。

異常気象が続く昨今、地球環境への不安を感じている人も多いはずです。私たちが日々の暮らしの中で「循環型社会」の実現に向けて実践できることがあれば教えてください。

佐藤先生:環境問題と聞くと「自分には難しい」と感じるかもしれませんが、実は個人レベルでできることはたくさんあります。
その有力な手段の一つが、バイオ炭の活用です。バイオ炭は、想像以上に簡単につくることができますし、購入することもできます。庭の畑や家庭菜園のような小さなスペースにまくだけでも、作物の収穫量が上がり、同時に炭素を土の中に閉じ込めることができます。

まずは「こうした方法がある」と知っていただき、周りの方へ広めていただくことから始めてほしいですね。
日本では、国がCO₂削減量を認証する「J-クレジット」など、バイオ炭の活用を広めるための制度はあるものの、その存在自体もあまりよく知られていないのが現状です。まだ一般には知られていないこうした仕組みを賢く利用することも、循環型社会への一歩となります。
環境問題に取り組む団体やグループもたくさん存在していますので、そういった人たちと交流しながら、まずは環境問題を「自分事」として取り込んでいくことが大切なのではないでしょうか。

まとめ

バイオ炭の研究は、環境問題の解決という成果に「直結」する。佐藤先生の言葉には、科学者としての確かな手応えが宿っていました。土壌を豊かにして食料を増やし、さらにCO₂を半永久的に閉じ込める。これまで知らなかった「炭」の可能性は、気候変動に立ち向かうための大きな希望です。

美しい自然が織りなす日本の四季は、今、温暖化によって大きな危機を迎えています。日本ならではの風景や文化を未来につなぐためにも、バイオ炭の研究や実用化はもはや急務といえるのではないでしょうか。
環境問題をはじめ、社会が抱えるさまざまな課題に対して私たち一人ひとりが「自分にできること」を知り、実践することの大切さを考えさせられたインタビューでした。

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ページ公開日:2026/08/28

プロフィール

佐藤 伸二郎

理工学部グリーンテクノロジー学科 教授

佐藤 伸二郎

専門分野
土壌学、バイオ炭、廃棄物処理など